社会人に成り立ての頃、取引先と昼食を共にしながら「どのような会社が良い会社だと思いますか?」と素朴な質問をしたことがあった。答えは「365日、リクルーティング(採用活動)している会社が良い会社だと思います。」というものだった。
一般的に、企業の採用姿勢は「人が余っているから採用はしない」「人が足りなくなったら採用する」というような会社が多い。しかし、この方の意見は『経営資源の「ヒト」「モノ」「カネ」の中でも「ヒト」が最重要であると思う。したがって、会社は良い人を探し続けるとの姿勢を持つことが大事である』という持論であった。
この取引先は外資系の銀行であった。公認会計士試験に合格した直後に会計監査の担当にいったのだが、社会人経験がほとんどなく、まして、金融取引の知識もなかった私には正直、当時は仕事が苦痛だった。さらには、書類のほとんどが英語で、チンプンカンプンなのだが、こちらは会計士として監査する立場なので、背伸びをして仕事してた記憶がある。外資系の銀行といえば、何となく冷たい印象を持っていたのだが、全然そんなことはなく(たまたまこの銀行だけだったかもしれない)、担当の方々は、人間性が暖かく、とりわけ、部内の雰囲気が良い銀行であった。
外資系の金融機関は、とにかく人の移り変わりが激しい。平均在職年数2年未満との有名な証券会社もあるほどだ。なので、四六時中採用活動することが日常茶飯事となっているのかもしれないが、ともかく、絶え間なく人材を見つけて育てていこうとの姿勢には大賛成である!
「四六時中採用する姿勢は大切です…」そう言われながら、実際に一人の採用に至るまでの話しをされた。その方は、郵便局から転職された女性である。御主人は商社マンで、「私も外資系で働きたい」との願望から、電話帳から外資系の銀行を探し出し、上から順番に履歴書を送られたそうである。1980年代のことで、今のようにインターネットやパソコンが普及していない頃のことである。一枚一枚履歴書を手書で書いたり、写真をとったりとそれなりに大変だったことだと思う。面接までに至った会社の確率は聞いてなかったが、この銀行はともかく面接はしてみようとの姿勢を持たれているとのことであった。
この女性が、採用される理由の一つに、「面接時にメモをとっていたこと」があったらしい。普通、メモは採用する側がとるものであるが、面接されながらメモをとるというのは珍しい。その仕草から「この方は真面目だ」との好印象を持たれて採用にまで至ったという。その後、ご主人が、ニューヨークに転勤され、日本での勤務実績もあって、家族離れ離れは可哀相と、その方もニューヨーク本店勤務になったとのサクセスストーリーである。その女性が身近に監査の応対をしてくださっていた方だったので、余計に親近感が湧き、ニューヨークに行った時に、当時の銀行で働いていた方と自宅にお伺いさせていただいたことも懐かしい。
この銀行内の一角には、部署内の従業員の誕生日(女性がいるので、年を省略し月日だけ)が貼ってあった。その日には皆でケーキを食べるという習慣もあった。なんとも麗しい光景である。
「人を大切にする会社」は良い会社!このことに、異論を唱える人はいないであろう。「人を粗末にする会社」が良い会社だとは誰も言わない。では、「人を大切にする」というのは具体的にどういうことか。列挙するのは意外に難しいのではないか。「誕生日にケーキを食べさせる会社が良い会社だ」とは限らない。
・残業させないから良い会社?
・社員旅行があるから良い会社?
・給与や賞与が高いから良い会社?
・机のスペースが広いから良い会社?
・家族ぐるみの付き合いができるから良い会社?
こうして挙げていっても、「人を大切にする会社」といってもピンとこない。
一言で言うなら「従業員を会社の道具にしない会社」「平等に従業員を尊敬する会社」が良い会社といえまいか。以前働いていた会社で、社員全員が揃う全体会議で、社長が「君達は私の商品なんだから…」との話しをしていて正直カチンときた。「私はあなたの為の働いているのではない!」と。
リストラにあったり、会社が倒産したり、合併したり、自ら転職すべきと考えたり、仕事に関わる悩みは尽きない。特に、自ら転職すべきという岐路に立つと、相談しても、なかなか納得にいく正解には辿り着かない。
嫌な事が続くとストレスもたまり、転職には色んなことを考えるものである。家族を養っている人は当然生活があり、将来性、キャリアパス、数え上げればきりがない。また、仕事としてはよかっても身近に嫌な人がいるとか、とかくうまくいかない。
次のような話しを聞いたことがある。「仕事の条件は、(1)給料がよくて(2)やりがいがあって(3)社会に貢献できるもの。この3つが揃えばいいが、なかなか揃わない、ではどうすればよいか、今いるところでなくてはならない人になりなさい。そうすれば、自然と道は開けていくものだ」。なくてはならない人に。そう心がけて毎日を送っていきたい。
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