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力説して下さった。ガス
エネルギーは冷房や自動車の燃料として利用できるものであり、様々な用途がある。
今あるものをどう活用していくか-。新しい価値を創っていくか-。ともかく、受け身
の姿勢からは新しい発想は生まれないものであろう。どのように知恵を出し、いかに賢く
利用していくか。仕事の中から、大切なことを学ばせていただいたものである。
1990 年の夏。企業派遣でアメリカに短期留学させていただいた後、当時勤めていた会計
事務所の職員として、大阪ガスの連結会計システム構築プロジェクトに参画し始めた。
大阪ガスは、周知の通り、ガスを供給することを主たる事業としている会社であるが、
ガス事業だけでなく、住宅、ガス器具、エネルギー付帯事業、食に関すること、健康、と
様々な事業を展開している企業グループでもある。「総合生活産業」との理念の元、今で
は(大阪ガスのホームページより 2001 年 10 月現在)、115 社の関係会社を有し、全関係
会社の従業員数(8454 名)は、大阪ガスの従業員数(7923 名)を上回るほどの多角化を図
っている。
関係会社からの迅速かつ正確なデータ収集が連結会計システムの構築のポイント
である。最近になって、欧米なみの連結決算の重要性が高まってきているが、その情報基
盤のために多くの企業が悩みを抱えているものである。
大阪ガスの担当者は「連結決算は親会社のニーズで行うもの。」との考え方を持ってお
られ、関係会社側で負担を強いるであろう勘定科目体系の変換や追加作業に関わる負担分
については親会社で手当てしたいと強く述べられていた。反面、「子会社だから親会社の
言うことを聞け!」とばかりに封建的に情報を求める企業文化を持っている会社もあるも
のである。どちらのスタンスが正論かを論ずるつもりはないが、どちらの場合に物事がう
まくはかどるか、との観点で事例を探求すれば前者(大阪ガス)であろう。後者の場合に
は、「また、親会社がうるさいことを言ってる。適当に報告しとけ!」のような状況にな
りかねないものである。
親会社だから偉いのではないと思う。子会社だからへりくだる必要もないとも思う。子
会社の業績が親会社の業績を上回る事例もあり、企業グループからすれば、親子関係は、
本来「役割分担」ではあるまいか。子会社が独立事業を営んでいるとしても、取引先との
信頼の基礎は、親会社ブランドによるものが多いものである。
多様な意見を吸収して、歩み寄り、合意が得られるまで粘り強く協議する-。グループ
会社の各国、業種、商慣習等の多様性に対して、「同一化」「画一化」ではなく、違いを
尊重しながら、その多様さをどう把握し、フィードバックしていくのかというグローバル
管理において、この最も肝要な一点を気づくのに至った源泉が、この大阪ガスの仕事から
だったものである。
主要株主に名を連ねるのは金融機関であり、大阪ガスは役所的な会社と見られがち
であるが、古くから東証一部に上場している民間企業である。上場企業であるがゆえに、
証券取引法に基づく有価証券報告書の提出義務がある。この有価証券報告書の見開きの部
分に、連絡担当者として部署、役職、担当者名、電話番号とを記載する箇所がある。多く
の企業では、経理、総務関係の担当役員を記載する例が多いものである。
当時、会計事務所職員として、大手企業の公認会計士監査に従事することが多かったが、
20 代の私にしてみれば、他の企業では、その担当役員の方と接するのは稀であり、譬えて
いえば、雲上人のような方々がほとんどであった。大阪ガスの場合には、実務担当責任者
の名前が記載されてあった。その事だけでも親密感が湧いてきたものである。大企業の有
価証券報告書に名を連ねている方と、プロジェクトで打ち合わせをできる事は、仕事とし
ての醍醐味を感じるものであった。
大阪ガスの方に「他の企業と違う特徴は?」と問うたところ、「現場を大切にする会社
ですよ」と答えられた。権限委譲や意思決定の迅速化が求められている中、この有価証券
報告書の記載一つとってみても、責任ある立場を任せられている企業であると感じたもの
である。実際に記載されていた方に「投資家なんかから問い合わせの電話とかあるんです
か?」と質問したところ、「時々ありますね、、しっかりとした対応を心がけてます」と
真摯に答えて下さった。
大阪ガスグループ企業行動基準として、ホームページに以下の内容が記載されている。
[1]良き企業市民としての行動基準
[2]製造・供給活動活動における行動基準
[3]取引活動における行動基準
[4]情報管理における行動基準
[5]職場における行動基準
[6]社会に対する行動基準
○人権の尊重 ○環境保全の配慮
○ガス事業者としての責務 ○製品等の安全性の確保
○独占禁止法 ○公正な取引の実施 ○お客さまとの応対
○関係先・取引先との交際
○情報の取扱いと公開・開示 ○知的財産等の取扱い
○安心して働ける環境の整備 ○雇用と処遇等
○反社会的勢力との対峙・利益供与の禁止 ○適正な納税
冒頭に「人権は、人が生まれながらにして持つ権利であり、あらゆる場面で最大限に尊
重されるべきものであることを自覚して行動しなければなりません。人権に関する正しい
知識を身につけ、お客さま、従業員等を人種、信条、性別、社会的身分、門地等によって
差別してはなりません。」( [1] 良き企業市民としての行動基準 ○人権の尊重 より)、
と人権の尊重から始まるこのグループ企業行動基準は、共生、規範、貢献、等、企業が本
来目指すべき方向性を明瞭に述べられている。
上流の計画フェーズの半年で、私のプロジェクト参画の役割が終了した。仕事として、
予算内で、かつ、期日通りに終了することができ、顧客からの満足度も得られたようであ
る。期日の最終日に報告会を実施したのであるが、驚いたことに、大阪ガスの担当者は、
その報告書を元に他企業へ意見を伺いに行くと言われたのである。
会計システムのような管理系システムにあっては、戦略系システムと異なり、他企業と
の情報交換を行ったところで本来の競争原理には反しないものであり、特に、IT技術の
進展に伴っての技術革新の著しい分野では、自社内の資源だけでは環境変化の波について
いけないもので、その点において、各方面との交流を実施することには感銘を受けたもの
である。
アメリカに短期留学してた際、発電に関わる電機メーカーの方と一緒になった。その方
から、猛暑の日中に、安定して電力を供給することは、並大抵の事ではないと伺った。そ
の直後だっただけに、ライフラインであるエネルギーの供給のために、どのような努力を
されているのだろうということに関心を寄せていた。仕事として、直接お伺いすることは
できなかったが、1995 年の阪神大震災後のご苦労はいかほどかと想像するものである。
風呂のためにもエネルギーの供給は必須であろうし、多くの方が連日の徹夜で作業された
ことであろう。震災に遭われた方々には申し訳ないことであるが、今後のためにも、機会
があれば、ライフラインの供給に関わるご苦労、工夫、心がけていること、等をお伺いし
たいものである。
2001 年 8 月記 – (次回はモルガン銀行の予定です)